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東京家庭裁判所 平成元年(家イ)3073号 審判 1989年9月22日

申立人 サルタン・デビレ・モハメット・バジ

相手方 矢野妙子

事件本人 矢野レイカ

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立人は、相手方との長女矢野レイカの親権者を相手方から申立人に変更する旨の調停を求めた。

2  一件記録中の資料、家庭裁判所調査官○○の調査報告書によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人は1957年12月15日生まれのイラン国籍の男性であり、相手方は昭和39年(1964年)生まれの日本国籍の女性である。

(2)  申立人と相手方は昭和60年12月25日に婚姻の届出をし、2人の間には昭和61年8月12日に長女レイカ(事件本人・日本国籍)が生まれた。しかし2人は昭和62年8月18日に、福島家庭裁判所白河支部において調停離婚した。その際事件本人の親権者を相手方と定め、以後相手方が監護養育している。

(3)  昭和63年11月15日、申立人は当庁に事件本人の親権者を相手方から申立人に変更する旨の調停を申立てた。

しかし相手方は、婚姻中の営業により生じた債務を相手方及びその親族がかぶる形になつており、これ以上申立人から被害をうけたくないということを理由に、昭和63年12月1日に、事件本人を連れ実母矢野充子とともに、西ドイツ国フランクフルト市へ、在住の知人を頼つて、転居してしまつた。

そのため調停での話合いができず申立人は調停申立てを取下げた。

(4)  平成元年5月31日に申立人は、再び相手方に対し親権者変更を求めて、当庁に調停を申立てた。

しかし、現在、相手方及び事件本人は西ドイツ国フランクフルト市に居住しており、本件調停のため事件本人を伴つて日本に帰国するなどの気配は全くうかがわれない。

以上の事実が認められる。

3  上記認定によれば、申立人は東京に居住するイラン国籍の男性であり、相手方は現在西ドイツ国に居住する日本国籍を有する女性である。また事件本人も日本国籍を有する者であるが現在3才であり母である相手方と共に西ドイツ国に居住しているものである。

かかる場合、親権者変更につき我が国家庭裁判所が調停あるいは審判をなしうるかにつき検討する。

親権者変更の国際的裁判管轄権については我が国法上明文の規定はない。しかし親権者の変更については何よりもまず親権に服する未成年の子の福祉にかなうよう定められるべきであり、この観点よりすれば、特段の事由のない限り、子の福祉のために適正な判断をなし得る国すなわち未成年者の住所地または常居所地の国に、第一次的に裁判管轄権を認めるべきである。

本件においては未成年者は親権者とともに現在西ドイツ国フランクフルト市において生活しており、日本には居住していないのであるから、我が国には国際的裁判管轄権が存しないといわざるを得ない。

そうすると、国際的裁判管轄権のない当庁に対し調停及び審判を求める本件申立ては不適法であり却下を免れない。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 島田充子)

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